犬と愛犬家を幸せにしたい――
「飛行犬」生みの親
カメラマン・的場信幸さんの描く未来
兵庫県南あわじ市伊加利地区。のどかな田園風景が広がる山間部で、とある写真を撮り続ける人物がいます。
写真家・的場信幸さんは、「飛行犬」の生みの親。飛行犬とは、犬が全力疾走する際、手足全てが地面から離れて宙に浮き、まるで空を飛んでいるように見える写真を指します。走る犬のいきいきとした躍動感、愛らしさが話題を呼び、一躍大ブームに。全国各地で飛行犬撮影会が開催され、累計撮影数は的場さんだけで30,000頭、事業グループ全体では50,000頭と、たくさんの犬と飼い主らが参加しています。
飛行犬誕生秘話と今後の展望について、「南あわじドッグラン 飛行犬撮影所」を運営する有限会社淡路デジタル取締役である的場さんにお話を伺いました。
生まれ育った淡路島で 「愛犬文化」を作りたい
幼い頃から写真にまつわる楽しい思い出に囲まれて育った的場さん。本格的に写真の世界へと飛び込んだのは、1975年のことでした。東京工芸大学(旧東京写真大学)を卒業し故郷である西淡町(現南あわじ市)に戻ると、写真館へ就職。その後約10年間、結婚式や運動会などを撮影する商業カメラマンとして活躍しました。バブル景気時代は淡路島の開発事業や観光客誘致に携わるなど、一時写真の世界から離れることになりますが、これが契機となりペット向け事業へと進出します。
2000年頃、世の中はペットブームの真っ只中。「犬は家族」という意識が生まれ始め、都心では犬を写真館で撮影する「ペット写真」というジャンルが確立したり、犬を走らせる「ドッグラン」が現れたりと注目を集めていました。自身も愛犬家である的場さんは、2004年に犬専門の撮影スタジオを設立。さらに「ドッグランを淡路島でも」という思いから、翌年に広い敷地のある現在の土地へ移転。「せっかくならば誰もやっていないことをしてみよう」と、ドッグランで走る犬を撮影するサービスを開始することに。しかし、島内の山間部ではまだ「犬は番犬」という意識が強く、放し飼いをしている家庭も多かったことから、ドッグランという文化は浸透せず、商況は思うように振るいませんでした。
偶然の一瞬が運命を変えた 「飛行犬」との出会い
何か手だてを打たねば……と悩む日々に、転機が訪れます。
ドッグランでの撮影写真の中に、犬がまるで飛んでいるようなカットがあったのです。手足をいっぱいに広げて走る犬のいきいきとした表情、躍動感、愛らしさ……飼い主も喜んでその写真を気に入り、的場さんは確信めいたものを感じたのでした。この偶然の一瞬を捉えた一枚の写真が「飛行犬」誕生のきっかけでした。
「都心のドッグランは犬と飼い主でいつも混み合っていますが、私たちのドッグランは田舎であることもあり常に貸し切り状態。その環境がワンちゃんを開放的にし、のびのびと思い切り走る姿が撮れたのだと思います」当時を振り返り的場さんはそう話します。
的場さんはこれを「飛行犬」と名付け、2005年には撮影所を「南あわじドッグラン 飛行犬撮影所」と改めました。さらに2009年には「飛行犬」の商標登録を取得し、事業を拡大していきます。
「掟破り」のアイデア 立地を逆手に取った行動で話題作り
その後、飛行犬は口コミで広がり、メディアに取り上げられるなどして瞬く間にブームを作り上げていきます。広告は一切打たなかったという的場さん。飛行犬のプロモーション成功にはいくつかの要因がありました。
まずは、その異端の撮影スタイル。飛行犬撮影会で使用されるカメラは、オリンピックやバイクのレースなどで使用される、スポーツ報道向けのハイエンド機材です。まるでバズーカ砲のような巨大レンズを使用して犬を撮影する的場さんの姿は人々の興味を引きました。
さらに、データを破格で販売したことも話題拡散の追い風になりました。当時の写真業界では、焼き増しなどで再び利益を得るチャンスが失われるため、撮影データは販売しないことが一般的でした。しかし、的場さんは「好きに使用して構わない」と、2,500円という安価でデータを販売。飼い主らは愛犬のかわいらしい飛行犬写真を見てもらおうと、インターネット上に画像データをアップし、それが愛犬家コミュニティ内で波及していきました。
的場さん「こんな田舎だから流行らない、と思っていたけれど、結果的には田舎だからこそ話題になったのだと思う。淡路島の山間部で、大きなレンズでひたすらに犬を撮るカメラマンがいる。それを目当てに都心からはるばる愛犬家たちがやってくる。その謎めいたところが飛行犬を話題にしたのでは」
やがて全国から問い合わせが殺到して大きな反響を呼び、ついには話題を聞きつけマスコミが取材に訪れるようになりました。首都圏の愛犬家からの問い合わせに応えるために、2016年には埼玉県に飛行犬撮影所東日本本部を開設。2021年にはCM監修や全国の動物病院で撮影画像がポスターとして掲載されるなど、「飛行犬」の輪は全国に広まっていきました。
的場さん「カメラマンとしてさまざまなものを撮影してきましたが、人を綺麗に撮ったときよりも、愛犬のかわいらしい写真を撮ったときの方がお客様に大きく喜んでもらえました。誰かを幸せにできる飛行犬という被写体に出会えて、私自身もまた幸せだったなと思います」
犬と愛犬家が、幸せで健康になれる施設を作りたい
的場さん「飛行犬の撮影は、ワンちゃんと飼い主の関係性が何より重要。日頃のコミュニケーションが十分でないと良い写真は撮れません。私もカメラマンとして単に写真を撮るだけではなく、ワンちゃんと愛犬家両方を幸せにする取り組みをしていきたい」
的場さんは2022年に地域の有志と共に「株式会社いかり」を設立し、代表取締役に就任。南あわじ市伊加利地区の地域活性化に取り組んでいます。同年秋頃には飛行犬撮影所の隣に、愛犬連れで利用できるキャンプ場「ワンともキャンプ場」をオープンする予定です。いずれは温泉、貸し農園、アクティビティなど伊加利地区の自然や立地を生かしたさまざまなエリアを計画しているそう。さらに、飼い主自身が飛行犬の撮影にチャレンジできる「飛行犬道場」を作り、愛犬の撮影や安全への配慮をレクチャーしていきたいと話します。
的場さんは、淡路島で生まれた「飛行犬」という文化を次の世代に広め、愛犬家向け事業を一緒になって作り上げてくれる仲間を募集しています。写真という枠を飛び越えて挑戦を続ける的場さんの今後に、ぜひ注目してください。
#後世へ残したい企業
合同会社飛行犬撮影所
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