使わなくなった宴会場を
ワーケーションスペースへ。
南あわじ市の老舗民宿「寿荘」が図る、再生と挑戦
兵庫県の淡路島最南端に位置する、南あわじ市。旧西淡町にある丸山・阿那賀地区は、眼前に穏やかな瀬戸内海を臨む、海辺の田舎町です。
そんな長閑な町にある民宿「寿荘」。創業約50年の老舗宿です。地元の人から愛され、オープン当初は連日大勢の宴会客で賑わっていた寿荘ですが、時代の流れとともにエリア全体の産業がゆるやかに衰退。さらに新型コロナウイルス感染拡大により客足が激減してしまいました。
そこで寿荘は再起を図るべく、使用されていない宴会場を大胆リノベーション。クリエイター向けコワーキングスペース「RINC」として生まれ変わりました。
革新的なリニューアルと寿荘への想いを、女将である菅さんにお聞きしました。
新鮮な食材と温泉が自慢 地元の人に愛される料理宿
1970年頃、南あわじ市エリアでは一大民宿ブームが起こりました。当時漁師だった菅さん夫婦もまた、地元で採れる新鮮な食材を生かした料理宿として民家で開業し、後に現在の建屋に移りました。
目の前の海で水揚げされる鯛の活造りや、夏はハモ、冬はフグといった新鮮な海鮮料理、さらに美人湯として名高いうずしお温泉を目当てに、地元はもちろん関西近郊からも旅行客が訪れ、オープン当初から大繁盛。60名収容可能な大宴会場も、連日満員になるなどして賑わいを見せていました。
菅さん「開業当初はとにかく忙しくて、毎日がむしゃらに働きました。お客さんが過ごしやすく、また来たいと思ってもらえるようにと思いながら接客していましたね」
当時を思い返し、そう話す菅さん。女将である菅さんの家庭的であたたかいおもてなしが人気を呼び、親子代々訪れる熱心なファンも多数いらっしゃいます。
時代の波と予想のつかない災禍 経営に忍び寄る影
そんな順風満帆な寿荘に転換期が訪れます。
2010年を過ぎた頃から、高齢化や後継者不足、人口減少などによって徐々にエリア一帯の客足が減少。寿荘もインターネット予約サイトなどを駆使して観光客の確保に努めてはいたものの、そろそろ何か新しい手を打たねばならないと感じ始めていたときでした。
2020年、新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の事態が起こり、状況は一変。社会全体を覆う自粛ムードに宴会客はゼロになり、宿泊客も激減してしまいました。どうにかしないといけない、と家族で話し合うもなかなか有効なアイデアは浮かびません。
大宴会場を有効活用 時代を生き抜くためのアイデアとは
「これからどうなってしまうのだろう……」
そんな思いで過ごしていたあるとき、菅さんは知人である南あわじ市職員の紹介で「リコネル」の存在を知ります。初めは、第三者に頼ることへの抵抗や不安があったものの、足しげく通い親身になって相談に乗ってくれる担当者の姿を見て、任せてみようという気持ちが湧いてきたそう。
そして度重なる話し合いの結果、寿荘の宿泊機能はそのままに、コロナの影響で使わなくなった宴会場を、ワーケーションスペースへとリニューアルするという決断をします。
ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」との造語。旅行先で休暇を取りながら仕事をするという新しい働き方の形です。コロナの影響でリモートワークが急速に普及した今、自由な働き方ができるクリエイターを中心にワーケーションへの関心が高まっています。
菅さん「初めはこのアイデアには驚かされました。ワーケーションも、コワーキングも、そんな言葉自体知りませんでしたから。でも、テレワークが普及したこの時勢なら、新しいお客さんに来てもらえるのかもしれない。いつ世の中が元通りになるのかも分からないし、宴会場のスペースを使わないままにしておくのももったいない。何よりもう前に進むほかありませんから、とにかくこのご縁とチャンスに乗ってみようという気持ちで決心しました」
2022年春、新たなる挑戦へ
ワーケーションスペース「RINC in寿荘」がオープン。
2022年4月、ついに「INNOVATION HOUSE RINC in寿荘」がオープン。 お披露目会では、南あわじ市長をはじめとする地元関係者や、コワーキングスペース利用希望の企業関係者で賑わいました。専用個室が利用できるサテライトオフィス法人会員枠はすぐに満室になるなど、さっそく話題を集めています。
菅さん「工事中は、変わっていく様子を見て不安な気持ちになることもありました。でも出来上がりを見てびっくり!今はとにかくワクワクしています。RINCに来てくれるビジネス利用のお客さんたちとお話しするのも楽しみ。みなさんに喜んでもらえるまかないご飯の献立を毎日一生懸命考えています」
寿荘の今後の展望
菅さん「今後寿荘を継いでくれる人がいるならば、体が健康で心の優しい方がいいですね。お金のことももちろん大事だけど、やっぱり一番にお客さんのことを考えられる人に任せたいです」
滞在する関係者に対して、常に食事の心配や労いの言葉をかけてくれる菅さん。古き良きおもてなしを大事にし、それでいて新たなビジネスへの機運を逃さないチャレンジングな気風。その優しさと人間的魅力が、今日までの寿荘を形作ってきたのでしょう。「次世代型民宿」として新たな価値を創造し続ける寿荘から、今後も目が離せません。
#後世へ残したい企業
活魚料理うずしお温泉 寿荘
会社名
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