有名アーティストも多数愛用!
日本でたった一つ、
国産シンバルをつくる会社の情熱
吹奏楽やバンド活動をする人たちにとって、「小出シンバル」は一つのステータス。その音色、振動、質感に魅せられたファンは数え切れません。そんな国内唯一の国産シンバルを生み出しているのが、大阪市の平野区にある「小出製作所」です。金属加工のプロフェッショナルとして、シンバル製作に携わって二十数年。社長の小出俊雄さんは、研究開発に情熱を傾けながら、そのブランド価値を新たなレベルへ押し上げる方法を模索しています。
「本物のシンバル」を求めて2004年から開発に着手
「小出製作所」は、70年以上続く金属加工メーカーです。1947年創業以来、金属板をさまざまな形に成形して、医療・通信機器、家電、車両部品などをつくることを本業としてきました。特に、へら押し加工のスペシャリストとして、その名を知られています。へら押し加工(ヘラ絞り加工)とは、金属の板を高速回転させながら、へらと呼ばれる棒を押し当てて、変形を繰り返す加工方法で、金属を回転させながら行うことから、スピニング加工とも呼ばれます。
一方で、「小出製作所」は、全国の音楽関係者から熱視線を浴びる会社でもあります。その理由は、日本で唯一、シンバルを製作していることによります。
小出さん「25年ほど前、ドラムが趣味の社員との会話で、私が『うちは昔、真鍮製のシンバルを作っていたんだ』と話したところ、その社員が『日本にはシンバルメーカーがないから真鍮製ではない本物のシンバルを作りましょう』と言ってくれたんです」。
そんな社員との何気ない会話をきっかけに、「本物のシンバル」づくりがスタートしました。
小出さん「真鍮は銅合金の一種で、柔らかく加工がたやすいので一般的に販売されている金属材料なのですが、柔らかすぎて、シンバルには向いているとは言えない金属です」。
小出さんは真鍮で作るのなら意味がないと考え、「本物のシンバル」を作るべく、材料を吟味することから始めました。
「本物のシンバル」を求めて2004年から開発に着手
まず小出さんは他社のシンバルを取り寄せ、どういった金属が使われているかを調べました。すると、銅とすずの合金、つまり青銅(ブロンズ)によって成形されていることが分かったのです。
小出さん「銅80%、すず20%の青銅でした。ただ、それらは決して手に入りやすい材料ではなかったんです」
シンバル用の青銅板を、シンバルメーカー以外に製造している会社はありませんでした。そこで、トルコのシンバル会社から青銅板を輸入して本格的なシンバル生産を始めることができたのです。ただ、その材料にもいろいろと問題があり、何とか自社で材料を作れないか考えていた時に偶然、シンバル用材料を作ってくれる合金会社が見つかりました。
工業用に使用される青銅は、すずの割合が、多くても10%程度まで。合金会社に特別に依頼をして20%超ものすずを含んだ青銅を作ってもらいました。 しかし、材料が手元にあれば、あとは簡単にできるというものではありません。シンバルの形に加工することこそがもっとも難しい工程であり、「小出製作所」以外で生産するところが国内にはない所以です。
小出さん「銅もすずも比較的柔らかい金属なのですが、合金して青銅になると途端に硬くなるんです。金属は伸縮性があるから変形するんですが、青銅のような硬い合金は伸びない。硬くて伸びがなく、成形が困難で無理に成形をすると割れてしまいます」
シンバルの生産技術を確立しました。その手法は企業秘密ということで、明かしてはくれませんでしたが、代わりにシンバル作りのやりがいを教えてくれました。
小出さん「既存のシンバルの分析をして、材料を探して、吟味して、加工の方法を模索する。その一連の勉強、研究が楽しくて。赤ちゃんは、大きくなるにつれて立って歩いて、話しますが、その過程で笑顔になるじゃないですか。それって、自分の成長が面白いからだと思うんですよ。私も同じ感覚を味わってきました」
小出製作所のシンバルは、振動を追究する物理学の権威の研究対象にもなり、その縁で小出さんは研究者や合金会社と一緒にシンバルの素材開発に取り組み、国から表彰されました。
小出さんは独自の研究も行い、多様なシンバルを生産。特にすずの割合を23%にまで引き上げ「極限まで硬くした」センシティブシリーズは、「高品質なシンバル用高錫濃度ブロンズ合金」の名で、2019年に中小企業庁長官賞を受賞。発明力、開発力が称えられました。
海外展開に向けてブランド価値を高めていきたい
現在、「KOIDEブランド」のシンバルは、クラシックシンバルと、ドラムセットシンバルという、2つの製品群をラインナップ。現在の月産は200枚にも達しています。アーティストやミュージシャンの愛用者も多く、彼らから直接アドバイスや要望を受けることもしばしばです。2019年からは代理店を経由してアメリカへの輸出もスタート。2020年には同国のドラム愛好家向けの月刊誌に特集が組まれるなど、徐々にではありますが、世界的なブランドになるべく歩みを進めています。
しかし一方で小出さんは、自分たちの力だけでは、これ以上の発展は望めないのではないかと感じていると言います。
小出さん「欧米をはじめとした国外には、私たちよりはるかに大きな楽器メーカーがあります。それらと勝負するには、現在の生産力や経営力では限界があります」
現在小出さんは、「KOIDEブランド」の海外展開に注力していくために、事業承継を視野に入れています。単に販路を確保するということだけでなく、ライバルの多い国々でも受け容れられるだけのブランド力を高めてくれる承継者を求めていると語ります。
小出さん「私も70歳を超え、会社を経営していく体力に自信がなくなってきました。ただ、自分たちのシンバルと加工技術には自信をもっています。海外で販売していくためには、何らかの付加価値がいると感じているので、それを見出してくれる方に承継を検討したいと思っています」
今や唯一となった国産シンバルを守り、発展させていく。KOIDEブランドのこれからを託せる承継者を、法人を中心に探しています。
#後世へ残したい企業
株式会社 小出製作所
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