超精密な加工で
日本のものづくりを支える。
エッチング業界のパイオニア棚澤晩翠堂
自動車に乗ったとき、ダッシュボードや中央コンソールの周囲などに、ざらざらとした「しわ模様」があるのを見かけたことがあるのではないでしょうか。まるで本物の革製品のような模様ですが、それらはシボ加工と呼ばれる金属の表面に模様を付ける技術により再現されたもの。今回紹介する大阪府八尾市の株式会社「棚澤晩翠堂」は、シボ加工技術の中でも、薬品によって金型となる金属を融解させ模様を加工するエッチングの専門家集団です。創業から110年以上、国内のエッチング技術のパイオニアとして超精密な加工技術で日本の産業を支えてきた企業が、どんな想いで事業承継を目指すのか棚澤節(たなざわ たかし)社長に聞きました。
エッチングは私たちの身近な製品に活用される必要不可欠な技術
棚澤晩翠堂は1911(明治44)年に大阪で創業。エッチング技術の分野では「国内で最古参の企業ではないか」と棚澤社長は話しています。この技術は、型を押し当てて目的の形に打ち抜くような加工法とは違い、小さな物に複雑な形状の加工ができます。私たちの身近な製品にも活用されており、例えば木目模様のプラスチック製食器であれば、エッチング技術で作られた木目の金型で製造されています。
そんな技術を扱う棚澤晩翠堂では、自動車や家電のパーツからLED照明用のカバーなど、多種多様な製品の金型をエッチング技術で加工しています。
棚澤社長「さまざまな依頼がある中で、高い精度が求められるのは自動車の車輪と車軸部分にある部品の加工です。1ミリメートルの100万分の1、つまり1マイクロメートル単位の加工になるので非常に難しい作業ですが、自動車の部品は人の命を左右する重要な物なので、妥協せずに仕上げています。」
マイクロメートル単位での加工も可能にするエッチング技術。1人前の職人になるには2~3年の経験が必要とされ、繊細な技術力が求められます。
棚澤社長「エッチングで模様を加工するにしても、模様というデザインは平面的ですが、金型は製品によって立体的で複雑な形状になります。そうなると、どうしてもデザインを立体化する過程で、模様の細部に歪みや切れ目が生まれます。その崩れた模様は職人が手作業で調整します。緻密な修正は一筋縄ではいきません」
棚澤社長「ほかにも、電柱標識版という電柱に巻いてある黒と黄色の板状のカバーを道路で見たことがあると思いますが、あの表面もエッチングで加工しています。電柱標識版の依頼を受けた当時、大きな素材を扱い、深い模様を加工するのはとても難しく、国内で対応できる企業はほぼありませんでした。試行錯誤を繰り返しながら挑戦し、これまでの経験や職人たちの技術力もあって、なんとか加工に成功しました」
挑戦を振り返りながら、技術力には自信があると笑顔で話す棚澤社長。そこには、妥協しない職人の技と、諦めない精神力で日本のものづくりを支えてきた企業としてのプライドがありました。
「技術が失われるのは日本の損失」業界の未来を見据えて事業承継を探る
国内のエッチング加工会社の先駆けとして業界をけん引してきた棚澤晩翠堂。棚澤社長は4代目社長として、技術と会社を後世につなぐため事業承継の道を探っています。
棚澤社長「現在はものづくりの現場に浸透したエッチングですが、国内の職人や専門業者の数はそこまで多くありません。職人の育成には時間も必要で、新人を指導できる豊富な経験を持ったベテランが引退していけば、技術が次の世代に引き継がれません。それはもったいないことで、日本の損失になります。一度失ったノウハウや技術を復活させるのは容易ではありません。そうならないためにも、会社の存続が大事だと考えるようになりました」
棚澤社長「なので、こうした業界への想いに共感できる人に事業を受け継いでほしいです。私は経営のほかに営業や現場での技術的なサポートまで、会社の全てに携わっているので、自分と同じように経営と技術の両方に知見のある方に事業を託したいという気持ちはありますが、もちろん経営の専門家や、会社を受け継ぎたい職人のような方とも協力できればと考えています」
会社だけではなく、業界全体を見据えて選んだ事業承継という選択肢。100年以上もエッチング技術の最前線に立ってきた棚澤晩翠堂の創業家として、この技術の大切さを実感してきたからこその判断でした。
エッチング技術の可能性を探り、さまざまな分野の企業と連携を目指す
棚澤社長はこれからの展望について、事業を続けていくためにも「技術の可能性を探ることが大事」と話しています。金型に関しては社内でテフロン加工やメッキ加工なども可能で、どんな注文にも応じることが営業文句だといいますが、何よりもその技術を活用するアイデアがまだまた足りません。
棚澤社長「エッチングでできることは、もっとたくさんあるはずです。金属の表面に凹凸を付ける技術を使って、製造業だけではなく、医療器具や化粧品といった、さまざまな分野の企業と連携できれば事業も安定します。アイデアはすぐに生まれませんが、今後も多くの会社を訪れて、私たちに何ができるのか伝えたいです」
エッチングの新たな活用方法の実現を目指して「たくさんの会社や人とのつながり」を積み重ねる棚澤晩翠堂。信頼される技術力と熱い想いがどんな未来を作り上げてくれるのか楽しみですね。
#後世へ残したい企業
株式会社 棚澤晩翠堂
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