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Uターン事業承継で地元糸島を活性化。親族外承継が生んだ株式会社やますえの新しい未来

#卸売・小売 #製造 #食品

会社を発展させ、次の世代につなぐため、さまざまな選択肢を模索する。そんな想いで行動する経営者の中には、経営権を後継者に引き継ぐ「事業継承」を検討している方も多いのではないでしょうか。

中小企業では、創業者が株式の大半を保有している場合が多く、これまでは創業者一族の中から次の経営者を育成し、会社を任せる「親族内承継」が主流でした。

しかし、近年は少子高齢化や社会の多様化などの理由から、親族以外に経営を引き継ぐ「親族外承継」を選択するケースも増えています。

今回紹介する「株式会社やますえ」の馬場孝志社長も、親族外承継で会社を引き継いだ経営者の一人です。どのような経緯で会社と出会い、経営者となったのか。「やると決めたら、やり遂げること」と、挑戦の大切さを語る馬場社長に、親族外承継と経営への想いを聞きました。

未経験の営業から社長に就任。地元・糸島にUターンして事業承継

新進気鋭の明太子メーカーやますえは1996(平成8)年、福岡県福岡市で現会長の山口 末太郎さんが創業。当初は水産加工メーカーではなく、明太子の原料となる魚卵の問屋事業を手掛けていました。

馬場社長がやますえに入社したのは、創業から少し後のこと。当時の馬場社長は運送会社でトラックのドライバーを勤めていましたが、山口会長との縁もあり、やますえに営業担当として入社しました。山口会長は当時の様子を「馬場社長は元気があり、人を惹きつけるタイプの人でした」と話しています。入社後の馬場社長は、その人柄もあり未経験の営業の仕事でも次々に成果を出し、ビジネスマンとして成長していきました。

馬場社長「共通の知人の紹介で山口会長と知り合い『うちの会社に来ないか?』と、やますえに誘われました。私も営業の仕事に興味がありましたし、山口会長と同じ磯釣りが趣味だったので、すぐに意気投合して入社を決めました」

その後、原材料の高騰などから魚卵の問屋事業に限界を感じた山口会長は、「明太子メーカーを目指す」という大きな方針転換を決断。これも、馬場社長という「さまざまな人とつながれる人材」がいたからこその判断でした。そして、やますえは2010(平成22)年に明太子メーカーに転身。そして2013(同25)年6月には福岡県糸島市に本社を移転し、2015(同27)年4月に馬場さんが社長に就任しました。

会社が地域の人とつながることで活性化。地域商社として糸島に貢献

馬場さんの社長就任には、山口会長の想いが強くありました。馬場社長が周囲の期待に応えて業績に貢献する中、山口会長が「糸島に行ったら社長をやってくれるか」と打診。馬場社長はすぐに了承したといいます。そうした方針が決まると、長年の信頼関係もあり、承継はスムーズに進みました。

また、本社移転先の福岡県糸島市は馬場社長の地元です。山口会長は事業を大きく変える上で、糸島という海産物に恵まれた地域のメリットなどと同時に、馬場社長の持つ「地域でのつながり」が糸島で愛される会社を目指すために大事だった、と語っています。

馬場社長「後継者に指名された時は、単純にうれしかったです。入社した時には社長になるとは思っていませんでしたが、何年も山口会長と仕事をする中で、会社を受け継ぐ覚悟はできていました。それに、本社を出身地の糸島に移し、地域に貢献できるのもうれしいです」

山口会長「私には息子と娘がいますが、会社は会社で一つの家族だと考えています。ですので、親族外承継といっても、ある意味『長男』である馬場社長に受け継いで貰うことに対して、懸念などはありませんでした。それに、変化する時代に対応できる若い力がないと、会社も成長できません。今後は、こうした事業承継が必要な時代になってくると感じています」

明太子メーカーとなり、会社の規模は拡大、地域に雇用も生み出しました。さらに、馬場社長はメーカーとして商品を生産するだけではなく、糸島の食材を使った加工食品を考えるなど、地域の活性化も進めています。

この馬場社長のケースのように、親族外承継によって「地元で新たな事業を進める」という選択肢があることが見えてきました。ビジネスチャンスがあるのは都会だけではありません。やますえのように、さまざまな可能性を持った企業を見逃さず、未来に残すことが大切ですね。

出身地の糸島に戻り「地産地消を復活させたい」やますえを受け継いだ馬場社長の描く未来

やますえを受け継いで事業を発展させてきた馬場社長は「糸島の食文化を大事にしたい」と、今後の目標を語っています。

馬場社長「私が子供のころ、糸島市には魚市場があり、地元の食材を食べる機会がたくさんありました。今は市場もなくなり、地元の食材は出回りません。地産地消の文化は復活させたいですし、そのためにも市場をつくりたいです。後は、廃棄されてしまうような価値の低い食材も活用したいと考えています。具体的には、販売できないような小さいタイなどを鯛めしに加工したり、まだまだできることは多いです。また、私たちが販売・加工することで漁師や生産者の顔が消費者に見えるようになればいいと思います。例えば、『糸島産イシダイ(○○さんが釣りました)』のような形で。それなら糸島の食材がおいしいと伝わりますし、生産者にも自分の食材がどこで売られているのか見ることができます」

さまざまな展望を描く馬場社長。これも、事業承継後、山口会長が会社の方針について全てを任せてくれたからだといいます。

馬場社長「承継が決まった後は経営の勉強など、まだまだ学ぶことは多くありました。今も毎日動き回っています。しかし、承継そのものは親族外承継だったからこそ、スパッと進んだと思います。社長になってからの方針も、山口会長から任されています。やはり、受け継ぐ側としては、事業のことは任せてほしいと思いますし、逆に『任せてもいい』と思われる存在になるべきです。もちろん、そのために私も、誰よりも考えて行動することを第一にしています。そして、受け継ぐ人間としては、やると決めたら、やり遂げること。その気持ちが大事です。受けるからにはやるしかないし、悩んでいる暇もなくなります」

これまで知らなかった業界に飛び込み、未経験の営業職から成長を続け、経営者としてやますえを託された馬場社長。事業承継を機に出身地に戻り、地域を盛り上げながら企業として事業拡大も進めています。

山口会長から次の世代に手渡された「未来へのバトン」が、これからどうつながっていくのか楽しみですね。


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